Buddy Guy/バディ・ガイC〜壮絶ライヴ


バディ・ガイがフロントに歩み出て、ギターの音がアンプから流れた時、
ステージは彼が発する強烈なエネルギーで一杯になった。
バディはクラプトンが主催した「クロスロード・ギター・フェスティバル」の時に
着ていたものと同じ黒いつなぎ服を着用し、
薄いクリーム色のゴルフ・ハットをかぶっていた。
足元を見ると「22」という番号の入った白いスニーカーをはいている。
ギターのヘッド部分には、「Deluxe」という文字。
黒いストラップにはシルバーで「BG」というイニシャルが入っていた。

ステージの下からは悲鳴にも似た叫び声があがり、
近くにいた若い男性は「バディ〜!バディ〜!」と興奮しながら叫んでいる。
どうしてバディはこんなにも男性から人気があるのだろう。
男が認めるところの男なのか?
男性達は食い入るようにバディを観ていた。

突然バックの音が小さくなり、バディが囁くような声で歌い始める。
すると観衆の騒ぎも一瞬にしておさまり、みんなバディの歌声に耳をすました。
年齢のことを考えてはいけないのだが、バディは現在68歳。
私はライヴ前、あの絶叫ボイスはもはや聴けないのではないかと
少なからず危惧していた。
そんな不安を抱きながら、私はバディの声に耳を傾ける。

今度はギターをピアニシモぐらいの音量で優しく奏で、
その後、ガッと音量をあげて、エモーショナルなフレーズを弾き始めた。
音色は歪んでいてサスティーンがかかったような状態。
観客の反応はバディの感情と一心同体であるかのようだった。

オープニングの曲がエンディングでブレイクするやいなや、
バディは『フーチー・クーチー・マン』のリフを虫の音ぐらいの音量で
つなげるように弾き、まわりからは歓喜の声があがった。
ブルース・ファンなら誰もが知っている有名曲。

そしてまたあの囁き声で歌い始める。
黒人クラブの様子が目の前に浮かんでくるようだ。
「何だかいい感じ・・・ この寂びれた歌い方。このニュアンス。」
と思っていたらバディが突然雷を落としたみたいな声で
力強くお腹の底から声を出した。
「出た〜! バディの絶叫ボイス!これだ〜!」
みんながそう思ったはずである。
バディの爆弾コールに観客からも激しいレスポンスが返ってきて
ライヴはますます熱気を帯びていった。

バディは来たるべきソロで、
目一杯感情をはじけさせようと思っていたのだろう。
ソロに入る直前、力強くチョーキングをした。
その途端いきなり1弦が切れてしまったのである!
その様子を観ていた観客はバディの熱いノリに大喜びし
あたりは騒然となった。

バディは1弦が切れてもものともせず、
そのまま2弦を駆使してソロを弾きまくった。
2曲目にして1弦が切れてしまうほど彼のテンションは
抑えきれないくらいに上がっており、
私はバディの情念の世界にグイグイと引き込まれていくことになる。

バディは即興で弦が切れたことを歌にした。
「何てことだ・・・ギターの弦が切れちまった・・・」
・・・俺はこのまま弾きまくるぜ!」
その次の瞬間「グヮ〜〜」っとこれでもかというくらい
ハイ・トーンでギターをかき鳴らしまくった。

テレキャスの代わりに登場したギターは、クリーム色のボディに
黒の水玉が散りばめられたフェンダー・ストラトキャスター。
ヘッドにはバディ・ガイの直筆サインが入っている。

サックス・ソロが終わった後、バディはかぶりつきにいた
女性のところへ行き、
ひざまづきながら愛を囁くような感じで歌い始めた。
そしてその女性の手元にストラトを近づけ、
彼女の指で弦を弾かせたのである。
そばで見ていた男性達からは「いいなぁ〜」という嫉妬めいた声があがり、
彼らは羨望の眼でその様子を見ていた。

次の曲が始まると、
バディはストラトを弾きながらステージの脇にある階段を降り、
ねずみ一匹入れないような人込みの中に身を沈めていった。
バディのギターにはシールドがない。ワイヤレスだからこそできる芸当だ。

後ろの方で観ていた観客はまさかの演出に大喜びである。
お付きの人がバディにマイクを差し出し、ペンライトを持ちながら一緒に練り歩く。
そのうちひときわ大きいどよめきが起こった。
どうやらまた1弦を切ってしまったようだ。
「バディ・・・信じられない!何でそんなに熱くなれるの?」

その後彼は場内を1周して反対側の階段を昇ってステージに上がり、
PAの後ろを通って私達の前に戻ってきた。
1弦が張りかえられたキャラメル色のテレキャスが再び登場する。

バディの若くたぎるような男っぽい熱情にほだされて、
もはや私の心は完全にノック・アウトされていた。
ライヴでこんな気持ちになったのは初めてかもしれない。
後半になってバディは、今日弾いた中でも最高と思われるほどの
壮絶ソロをありったけの気持ちを込めて弾いてくれた。
次の瞬間バディはふっと我に返り、自分が持っていた
ピックをジッと見つめる・・・

それを見たステージ際の観客は一斉に手を出した。
そのピックをくださいと言わんばかりに。
バディはステージの下を上からグルリと見回し
彼の視線は手を伸ばす私のところで止まった。

バディが目を細めながら私を見つめた時、
私はその深いまなざしに吸い込まれそうになった。
その時脳裏にある言葉が浮かんでくる。
「こんな時はこの言葉しかない・・・でも恥ずかしくて言えない。」
心の中でそう葛藤しながら、バディの目を見つめていたら、
魔法(ジョン・ザ・コンカラーの魔力!)がかけられたみたいに
言葉がすっと口から出てきたのである。

「I love you, Buddy !」

バディはすぐに私を指差した。「君にあげるよ!」
そうジェスチャーしながらピックを私の手の中に置いてくれたのだ。
その後バディは指だけでボリューム感あふれる
熱いソロを再び弾きはじめた。
その姿は今でも私の瞼に焼きついている。
『フーチー・クーチー・マン』の歌詞にもあるように
バディはマディ・ウォーターズ直伝のモジョとブラック・キャット・ボーンを
持っているのかもしれない。

これがブルースの世界なのだ・・・
バディが教えてくれた。
「歌は心で歌い、ギターも心で奏でるもの。
ほとばしる情熱は素直に身体で表現すればいいのさ!」

<05・6・17>